WSJのNest Era Leadersに掲載されました。

和訳↓

残らない美学

「残らない美しさ」が、この展示会ブースのデザインという仕事にこそある。そう語るのは、株式会社リオエンターテイメントデザイン代表取締役の竹林良太氏。形として残らないからこそ、その空間は人々の心に“記憶に残る瞬間”として深く刻まれるという。かつては映画業界を志し、“形に残るものづくり”に惹かれていたが、空間デザインに出会い、儚いものづくりの価値に気づいた。現在は、限られた時間の中で、一瞬の記憶を永遠に変えるに残る空間を生み出している。

展示会の空間演出を手がける当社は、オンラインやカタログだけでは伝わりにくい商品の魅力を、来場者に直接届ける企業ブースのデザインを担っています。クライアントに寄り添い、約3カ月かけて一つの空間をつくり上げる。それは、いわば“夢を売る仕事”です。しかし、その空間が存在するのは展示会開催中のわずか3日間。丹念にデザイン・施工された空間も、会期が終われば即座に解体されます。それでも、多くのプロフェッショナルが関わり、一期一会の場をつくり出すこの仕事に、私は強い魅力を感じています。

私は中学卒業後、単身でオーストラリアへ渡りました。当時は「片道切符」のつもりで日本を飛び出しましたが、振り返れば、あの頃の挑戦に満ちたエネルギーには今の自分でも及ばないと感じるほどです。

昔から映画が好きで、かつては映画監督に憧れて、自主映画製作にも没頭しました。「ジュラシック・パーク」の恐竜のように、実在しないものが、あたかもそこに存在するかのように描かれる世界に惹かれていたのです。

しかし、映像業界特有の慣習になじめず、一度は夢を断念しました。そんなときに出会ったのが、空間デザインの仕事でした。「これを人生最後の挑戦にしよう」―そう決意し、私はこの業界に身を投じました。

私の理念は、「120%の仕事をすること」です。展示会のブースは数日間で消えてしまう空間ですが、そこには多くの人の時間と想いが込められています。だからこそ、その一瞬に全力を尽くしたいのです。例えば、100万円の予算があったとしても、一般的な分業体制では営業費やデザイン費などが差し引かれ、実制作に充てられる金額が70万円ほどに目減りしてしまうケースも少なくありません。

しかし、当社では一人の担当者が営業からヒアリング、デザインまで一気通貫で担う体制を敷いています。間接コストを削り、限られた予算を最大限、空間づくりそのものに投下するためです。また、専任担当者が一貫して担うことで、クライアントの細やかなニュアンスをより正確に形にできます。分業による意図の乖離を防ぐこの仕組みこそが、当社の強みでもあります。

そのため、人材育成には労を惜しみません。一人でクライアントと対峙し、空間を完成させられるプロを育てる。その積み重ねが、結果として「120%の仕事」につながると確信しています。展示会はわずか数日で幕を閉じますが、そこで生み出された体験は、人々の記憶の中に鮮烈に残り続けるものだと信じています。

この展示業界は、お世辞にも「楽な仕事」とは言えません。裏方ゆえの苦労もあり、体力的・精神的にタフさが求められる場面も少なくありません。それでも、この世界に興味を抱き、足を踏み入れてくれる若い世代がいます。数ある会社の中から当社を志してくれたからには、厳しさの先にある楽しさや達成感を、ぜひ味わってほしいと願っています。私自身、若かりし頃に仕事を通じて「しびれるような感動」を何度も経験してきました。その心が震えるような感覚を、社員にも体験してほしいのです。

将来の展望の一つに、「自社工場の設立」があります。現在は当社でデザインしたものを外部へ制作を依頼していますが、小さくとも自ら形にできる拠点を持つことで、デザインから施工までを一貫して見通せるようになり、ビジネスの可能性が大きく広がるはずです。

また、私は「デザインとはエゴを押し付けるものではない」と考えています。例えばクライアントがピンク色を好むなら、たとえ自分の趣味に合わずとも、その色を最大限に活かす方法を模索するのがプロの仕事です。自己表現を追求するアーティストに対し、他者の想いを形にすることこそが、デザイナーの本分なのです。

経営も同様です。社員に特定の型を押し付けるのではなく、それぞれが目指す姿を実現できる環境を整えることが大切だと考えています。最低限のルールはあっても、細かなマニュアルは存在しません。一人ひとりが自律的に考え、成長し続けられる組織でありたい。そう強く願っています。